2010年1月13日水曜日

腑に落ちない話

ケアマネA氏B氏がさる家庭の問題について議論
・・というかこぼしているのを横で聞いている。
この「在宅支援」という仕事、どぶさらいみたいなもんで
さらってもさらってもどろどろしたものが溜まる。
最近は「こんな患者いらねーや。どーせ在宅だ」
と、わざわざどぶにゴミを投げ込んでくださる
親切な医者や医療関係者が増加傾向にある。
愚痴でもなんでも互いにこぼしながら進まないとやっていけない。

話にのぼっているのはK家。
起きている事は有りがちな(そう、ありふれています)介護放棄。
ネグレクト、と言うやつ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ネグレクト
幼児虐待の事件、報道が多いのですが
高齢者のネグレクトは表面化させにくく、また社会的に
無視、抹殺されている部分があるように思う。

息子夫婦が世話をしない。こちらから言ってもやっても知らん顔。
「あんまりひどかったら保護者責任遺棄で訴えられるくらいに
脅してやらんと・・・」
そう言いながら話に入っていったが、よく聞くと状況が違う。

数年前からK家のばあ様はいわゆる「認知症(この言葉、きらいだなあ・・
ごまかしだもん。薬は抗痴呆剤って呼ぶのにね)」で
近所の畑に入って勝手に野菜を取ってくるわ
嫁に物は投げつけるわで大変な状態だったそう。
「息子さんに何言ってもへらへら笑って聞いてくれない・・・」
とケアマネB氏。
そんな状態が続けば嫁に介護しろ、は無理だし
息子は嫁-姑問題に認知症が絡んでは逃げまくりだし。

じゃあ、完全に放置しているのか、と言うとこれが違う。
今の時代、介護保険制度と言う端から破綻している制度があり
通所(デイサービス)なんかを利用できる。
入浴、リハビリ、コミュニケーションの一環として
上手く、と言うか普通に利用してもらう分には結構なのだが
「姥捨て山」的利用になってしまうケースも仕方なしか。

K家担当のケアマネB氏がこぼす。
「デイサービスやショートステイに送り出した先で何かあっても
知らん顔!連絡は取れないしやるべき事は一切しない!」
施設で例えば体調が悪くなったとすれば
普通、そこでデイサービス、ショートステイ中止とし
家族に連絡、家人が迎えに来て医療機関に受診させる、
と言う流れになる。これもなんだかオカシナ話だが
「医療-介護」保険の並列、と言う立場をとるとそうせざるを得ない。
保険制度ではないが、保育園に預けた子供が急に熱波すると
親に連絡が入り迎えに行かねばならない流れと同じ。
そこの所を完全に無視、放棄しており
施設側も困り果てているとの事。

「家族も動いてくれないと、こっちも施設も馬鹿馬鹿しくなる・・・
家族の事情もあるだろうが、こうあからさまに
”知らん””預けたんだからそっちで全部やれ”では
こっちの気持ちも出しようが無い。
お互い連絡・連携をとりあってこそ
”お願いします””お世話させて頂きます”という関係になれるものなのに!」
B氏の怒りは治まらない。

「婆さんにかける手間はない、と言うならばいっそ何もしない方が
ましですよね・・・」とケアマネA氏。
「家の中に閉じ込めてね。(←座敷牢容認派)
それもその家の方針だから仕方ない。
中途半端に通所なんか利用されては保護者責任遺棄とも
言えないしなあ・・・・」と嘆息する私。
「それでね、腑に落ちない話が出てきたのよ!
”抜け道”があるって言うのよ!」B氏興奮。
A氏・私「”ぬけ道”・・・・?」

どうやらB氏、先立ってそのK家がよく利用する某施設を訪問した様子。
そこで管理職某氏がとんでもない提案を家族にしたと聞きつけてきたらしい。
自治体、施設にもよるが普通、施設入所となると
一人あたり月10-12・3万はかかるのが普通。
入所者本人の年金の持ち方にもよるが
決して格安とは言えない金額であろう。
「それをね、月3万くらいに抑える”抜け道”を教えるから
そして待機の順番も繰り上げてやるから(大規模施設だと
待機老人80-100名はざら。ただし、実数は不明。
施設の腹づもり一つで順番が逆転するケースも多い)
入所手続きをしろって管理職某氏が家族に言っちゃったのよ・・・」
「???月3万ってどう言うからくり?」
「若い世代と世帯を別にしたように見せかけると出来るらしいの」
「・・・見かけ離婚したようにして母子家庭手当て取るのと
同じ様な手段かなあ・・・」
「市役所がよく許すわね?」
「そこが蛇の道、抜け道らしいわよ」
「ちょっと待って」と思わず口を挟む私。
「K家はあれ、いわゆる”金を払わないモンスターファミリー”?」
「違います。金は払っている。クレーマーでもない」
「そうそう、徹底したネグレクト」
「じゃあ、なんで安くする手段なんて教えるのよ?」
「ですからね」B氏がじれて早口で説明し出す。
「通所だと中途半端に家族と関わらなきゃいけないじゃないですか。
K家では入所させるとお金がかかるから家でも介護して
通所で続ける、と言っているんです。
でも、家で見るとは言うだけでなにもしちゃいないし
通所で施設に預けたら知らぬ存ぜず。
施設側としてはこれ以上、家族に振り回されたくないから
いっそ、入所させてしまおう、と考えているんですよ。
そっちに誘導しようとしているから”安く早くしてやる”なんて
提案を持ちかけているんです。」
隣でA氏がうんうんと肯く。
「本入所でももちろん家族とのかかわりは皆無ではないけれど
実際、預けっぱなしの家族も多いですしね。
その方が施設としてはラクだしやりやすい」
「入所して何か問題が起これば家族に一々連絡とらずに
こっち(病院)にどうにかしろ、どうするんだ、と
わあわあ言って押し付けられるじゃないですか。
そっちの方がラクなんですよ」
・・・・ぎゃっ!!と胸の内で叫ぶ私。
その「わあわあ言って押し付ける」受け皿って私じゃないの!

施設の方針や家族との関係は各々だから一概には言えないが
そこの某施設は多岐に渡りどうも理不尽な事で
しょっちゅう「わあわあ」騒いでは必ず入院させろとごり押ししてくる。
・・・・ドブさらいの仕事+ババ抜きゲームか・・・
どうもそうだとは思っていたが、本当の「ババ抜き」ゲームとは・・・

B氏の義憤はまだ尽きない。
「他の家ではね、ちゃんとお金を払っているものよ。
貯金を取り崩したり、年金をかき集めたりしてやりくりしているもの。
それをなんでK家にはおかしなからくりを教えて誘導するのかしら!?
待機の順番だって一気に飛び越させるつもりなのよ。
自分たちでお世話して頑張りながら待っているのよ、よその家では!
自分たち(施設管理者)にとってうざいからって
そんな仕組みをこしらえられては腑に落ちない!」

そりゃ腑に落ちませんとも・・・

始めは単にネグレクトの問題かと思ったが
(単にネグレクト、ではないのだが・・・・)
それどころではない社会構造、人間の保身みたいな
不愉快きわまる問題がからみ二重・三重に複雑化している。
真面目に介護、真面目に看護、真面目に医療を行おうとしても
こんな話にぶち当たると・・・

「結局、大きな声で言ったモン勝ち、クレームつけたモン勝ち、
放棄したモン勝ちってことで・・・」
「あほくさくなってきましたなあ・・・」
「・・・やっぱ、やめますか、この仕事・・・」
とA氏と私はそんな風に言うしかない。

「腑に落ちないのよ・・・!」
B氏はまだひとりでつぶやいている・・・



(この内容は脚色してありますが実際の話に基づいて作成したものです)

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